今回お話するのは
16人の犠牲者を出した事件
大阪個室ビデオ店放火事件
です。
京アニの事件が起きるまでは、戦後日本で最も悲惨な放火殺人事件といわれていました。
大阪個室ビデオ店放火事件とは
大阪個室ビデオ放火事件は2008年10月1日の午前3時ごろに発生した事件。
大阪市の浪速区難波3丁目3-23の檜ビル1階の個室ビデオ店「キャッツなんば店」が現場。
事件当時、その場にいた26名と3名の従業員のうち、死亡者が16名という戦後最悪の放火殺人となった。
犯人の男との動機は
生きていくのが嫌になった
と説明し、死刑判決を言い渡された。
- 死者: 16名
- 負傷者: 9名
- 犯人: 死刑判決(未執行)
事件の犯人: 小川和弘
事件の放火犯として逮捕された「小川和弘(事件当時46歳)」。
ごく普通の男性であり、会社に勤め、一般家庭も築いていた程。
ただ、会社をリストラされ、離婚して妻と娘が離れてからは人が変わった。
子供の遊ぶ声に怒鳴り、競馬やパチンコなどのギャンブルにはまり、借金までするように。
そして、唯一の肉親である母親の死後、遺産を全て相続し、自宅も売り払い、得たお金で借金を返済。
東大阪市のワンルームマンションに住むようになってからは、奇行も目立つように。
事件発生年には生活保護を受け、事件後には消費者金融からの多額の借金もあったことが判明している。
遺産は東大阪市に引っ越した時点で3500万円程残っていたが、2年ほどで使い果たしている。
事件の発生
事件当時、小川は「キャッツなんば店」に客として滞在。
店内のティッシュペーパーに火をつけて、持っていたキャリーバックに火を移した。
当時は午前3時であり、寝ている人たちも多く、後述する問題点も重なり被害は拡大。
結果として、お客さんの多数は逃げることが出来ず死亡。
16人が亡くなり、2008年時点での「1日で1人の人間が殺害した人数」は戦後日本において最多を記録してしまった。
事件直後、通報を受けた警察官が現場に駆け付けたところ、その場にいた小川が
と犯行を認めるような発言をしたため、任意の取り調べで放火を自白。
殺人容疑で逮捕されたのであった。
小川和弘の裁判と判決
ここではこの事件の裁判の流れを追っていきます。
小川和弘は何を語り、彼の弁護団はどのように対応したのか。
また、死刑判決となった理由についてもお話をしていきます。
- 第一審: 死刑判決
- 第二審: 死刑判決
- 最終判決: 死刑確定
この順番で見ていきます。
1審判決: 死刑判決
2009年の9月14日に行われた初公判。
小川はそれまで認めていた犯行容疑を一転させ、
「火はつけていない」
「自分のたばこの不始末のせいだと思って認めてしまった」
と無罪を主張。
それに対し、裁判長は「最大限の非難に値し、命をもって償うべきだ」と死刑判決を言い渡した。
「判決理由」「殺意」「容疑の信用性」「死刑理由」は以下のように示した。
小川被告の部屋で炎が燃え上がっており、焼け跡の状況や現場検証を基に判断すれば、失火は考えられない
避難しにくい店の構造や、他の客がいたことを理解しており、放火をすれば死者が出るという事を認識しており、殺意は認められる。
自白は詳細で、具体的である。厳しい刑から逃れたいと思って否認に転じたとみられ、供述調書は信用できる
自殺目的の動機は身勝手極まりなく、なんの落ち度のない16人を殺害した残虐な犯行で、死刑は免れない
この判決を受け、小川弁護側は即日控訴。
2審判決: 死刑判決
2010円11月30日に行われた2審判決で、弁護側は無罪を訴えた。
「焼け方が一番激しかったのは別の部屋であり、小川被告の部屋ではない」
「また、被告の部屋から出火したという店員の目撃証言も変遷しており、信用性に欠ける」
と主張。
この主張に対し、2011年7月26日に大阪高裁は弁護側の訴えを退け、第一審の死刑判決を支持。
弁護側は最高裁判所に上告するのであった。
上告: 棄却(死刑確定)
2014年の最高裁判で小川容疑者の判決は死刑が確定。
弁護側の上告を棄却し、
大阪市内の有数の繁華街にあった本件店舗を全焼させ,極めて多数の死傷者を出したもので,その結果の重大性は甚だしく,社会に与えた衝撃や不安も大きい。被告人は,本件店舗の個室内で,過去を振り返り,現在の自分を惨めに思い,衝動的に自殺しようと決意して犯行に及んだものであるが,そのような動機や経緯に酌量すべき事情は認められない。本件店舗は,通路が狭く,出入口が限られるなど,客が避難しにくい構造であったところ,被告人は,犯行前に店舗内を歩き回るなどした際に,そのような店舗の構造を認識するとともに,個室内でヘッドホンを使用したり,就寝したりしている客がいるであろうことも認識しながら,他の者の安全を顧みることなく放火行為に及んだのであって,その犯行は,人の生命を軽視した極めて危険で悪質なものである。被告人は,捜査段階の終盤からは,自ら放火したことを全面的に否認し続けており,真摯な反省の態度はうかがわれない。以上のような事情に照らすと,多数の死者が出ることを確定的に認識していたわけではないこと,前科がないことなど,被告人のために酌むべき事情を十分考慮しても,被告人の刑事責任は極めて重大であり,原判決が維持した第1審判決の死刑の科刑は,やむを得ない
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死刑判決を受けた小川和弘は、大阪拘置所で現在収監されているという。
放火事件の疑問点
小川被告の死刑は確定したわけだが、本当に彼だけの問題なのかという疑問もある。
根本原因は彼の放火だが、店側の火事に対する対策、対応も杜撰なものではなかったか。
- 店員による消火活動や避難誘導が適切に行われなかった
- 個室エリアへの出入り口は1か所のみ(出口から遠い部屋の被害が多い)
- 窓や排煙設備はなく、個室での非常用照明もなかった
- 通路壁の一部に難燃建材が使われていない
- 利用客が仮眠やヘッドホン使用で火災に気づきにくい
- 火災報知機のベルはなったが、防災管理人が煙草の煙による誤作動と思い込んでベルを止めていた
だが、3番や4番のように設備を整えていたとしても、被害はそこまで変わらなかったでしょう。(事実実験では、死因となった一酸化炭素の濃度は、設備の有無に関わらず変化がなかったと判明)
ましてや、過失を被害者側に置くには意味が不明であり、何の言い訳にもならない。
放火事件のその後
弁護団及び、小川死刑囚は再審請求を行った。
模型を使った燃焼実験の結果を提出し、「火元は別であり、被告の部屋からの出荷はTVの発熱による発火が原因」と主張。
これに対し、裁判所は「2か所からの出火は経験則上も大きな疑問を抱かざるを得ない。警察の証拠を覆すほどではない」と訴えを退けた。
これに対し、弁護団は2019年に第二次再審請求を行い、「別の火元の可能性を示す燃焼実験」が2021年に提出されている。
まとめ: 大阪個室ビデオ店放火事件
今回は大阪で発生した放火事件について紹介しました。
2019年に発生した京アニ放火事件の方が被害は甚大でしたが、その約10年前にも同じような事件は起きています。
火事対策をしても、炎が一瞬で燃え広がれば助かることは難しいです。
どんなことがあろうと、落ち度は犯人の方に100あると思っている。
という訳で今回のまとめ
- 大阪個室ビデオ店放火事件は2008年に発生した事件
- 小川和弘が自殺目的で放火を行った
- 16名の死者と9名の負傷者を出した
- 2008年時点で「戦後日本の最悪な殺害事件」
- 裁判では小川和弘の死刑が確定
「すみません」
「死にたかったんですわ」